
2026年8月3日から5日までの米国企業決算では、人工知能(AI)関連需要の強さが改めて確認されました。ただし、好調だったのはAI向け半導体企業だけではありません。データ解析ソフトウェア、電源制御用半導体、建設機械、発電設備など、データセンター建設を支える幅広い業種へ需要が波及しています。
一方、決算数値が市場予想を上回っても、株価が下落する企業がありました。Palantir Technologiesは大幅高となりましたが、AMDやUber Technologiesは成長を維持しながら株価が下落しました。
この違いを理解するには、決算を単純な「増収・増益」で評価するのではなく、市場予想との差、会社の先行き見通し、利益の質、すでに株価へ織り込まれていた期待を分けて見る必要があります。
なお、以下の日付は米国時間です。対象期間に決算を発表したすべての企業ではなく、業績規模、市場反応、産業構造への影響が大きい主要企業を取り上げます。
■米企業全体では高い利益成長が続いている
今回の決算発表は、米国企業全体の利益が大きく伸びる環境の中で行われました。
LSEG IBESの集計によると、8月5日時点でS&P500構成企業の75%以上が4〜6月期決算を発表し、調整後利益は前年同期比31.1%増となる見通しです。実現すれば2021年以来の高い伸びとなります。特に情報技術部門の利益は72%増が見込まれています。
ただし、企業利益が全体として増えていることと、すべての企業の事業環境が良いことは同じではありません。AI設備投資の恩恵を受ける企業が成長率を押し上げる一方、外食、広告、医薬品などでは需要の地域差、特許切れ、価格戦略、新製品への移行といった個別要因が業績を左右しています。
■決算では「予想超過」より期待値との距離が重要になる
決算報道で頻繁に使われるEPSとは、1株当たり利益を意味します。企業が得た利益を株式数で割り、株主に帰属する利益を比較しやすくした指標です。
ただし、多くの報道で使用される「調整後EPS」は、買収関連費用、減損、事業再編費用などを除いた数値です。継続事業の収益力を見るには有用ですが、除外された損失そのものが消えるわけではありません。
もう一つ重要なのが、ガイダンスと呼ばれる会社側の業績見通しです。株価は過去3カ月の実績だけでなく、その企業が次の四半期や通期にどれだけ成長すると予測しているかで動きます。
そのため、売上高とEPSが市場予想を上回っても、将来見通しが期待ほど強くなければ株価は下落します。反対に、現在の利益が小さくても、成長見通しが大きく改善すれば株価が上昇する場合があります。
■8月3日 Palantirの急成長とAI需要の裾野拡大
Palantir Technologiesは売上高が93%増加
データ解析ソフトウェアを提供するPalantir Technologiesの売上高は、前年同期比93%増の19億4,000万ドルとなり、市場予想の18億ドルを上回りました。調整後EPSも0.41ドルと、市場予想の0.35ドルを上回っています。
米政府向け売上高は90%増の8億900万ドルとなりました。同社は2026年通期の売上高予想を、従来の76億5,000万〜76億6,200万ドルから、81億5,000万〜81億5,800万ドルへ引き上げました。決算発表後の時間外取引では株価が約14%上昇しています。
ここで重要なのは、AIという言葉そのものではなく、政府機関や企業がAIを実際の意思決定、業務管理、データ分析へ組み込むための支出が拡大している点です。
もっとも、現在の成長率が長期間続くと決まったわけではありません。大型契約の獲得時期によって四半期ごとの数字が変動しやすく、急上昇した株価には高い将来成長がすでに織り込まれている可能性があります。
■Snapは広告収入が回復したが地域差が残る
Snapの売上高は19%増の16億ドルとなり、市場予想の15億4,000万ドルを上回りました。1日当たり利用者数は5%増の4億9,300万人です。サッカー・ワールドカップ関連の広告需要と、北米の大口広告主による出稿回復が寄与し、時間外取引で株価は13%上昇しました。
一方、北米の利用者数は約7%減少し、欧州も約2%減少しています。利用者全体が増えていても、広告単価が比較的高い成熟市場で利用者が減少すれば、長期的な収益性には影響します。
今回の広告増加にはワールドカップという大型イベントの効果も含まれます。したがって、次の四半期ではイベント終了後も広告需要を維持できるかが焦点になります。
■onsemiはAI向け電力制御需要を取り込む
半導体メーカーのonsemiは、4〜6月期売上高が約16億ドル、調整後EPSが0.74ドルとなり、市場予想を小幅に上回りました。7〜9月期の売上高については16億5,000万〜17億5,000万ドルを見込み、予想中央値は市場予想を上回っています。
onsemiが主に提供するのは、AIの計算を直接行うGPUではなく、電力の変換や制御を担う半導体です。大量の電力を消費するAIサーバーでは、電力を効率よく供給し、発熱や損失を抑える部品が不可欠です。
AI設備投資の恩恵は、演算用半導体だけで完結しません。電源、冷却、配電、通信、建物といった周辺設備にも支出が広がるためです。
■Vertexは主力薬の世代交代が進む
Vertex Pharmaceuticalsの売上高は12%増の33億3,000万ドルとなり、市場予想を上回りました。嚢胞性線維症治療薬Alyftrekの売上高は5億7,360万ドルへ増加する一方、既存薬Trikaftaの売上高は市場予想を下回りました。同社は通期売上高予想を131億〜132億ドルへ引き上げています。
これは、既存薬の需要が単純に失われているというより、同じ会社の新薬へ患者が移行している面があります。この場合、旧製品の減収だけを見るのではなく、治療領域全体の売上高、新薬の採用速度、利益率を確認する必要があります。
■8月4日 AI設備投資が建設機械へ波及
Caterpillarは建設・発電設備の需要が急増
Caterpillarの売上高は24%増の205億4,000万ドル、調整後EPSは8.17ドルとなり、市場予想の6.20ドルを大幅に上回りました。
建設機械部門の売上高は35%増え、北米では50%増加しました。発電機やエンジンなどを含む電力・エネルギー部門も17%増収となっています。受注残高は721億ドルに達し、決算発表後の株価は一時12%上昇しました。
データセンターの建設には、サーバーや半導体だけでなく、土地造成、建設機械、非常用発電機、電力設備が必要です。Caterpillarの業績は、AI投資がデジタル産業の内部から物理的な建設需要へ波及していることを示しています。
ただし、利益増加のすべてをAI需要だけで説明するのは適切ではありません。同社は関税費用の見通しも約22億ドルへ引き下げており、コスト見積もりの改善も業績評価に影響しています。
■AMDは好決算でも株価が下落
AMDの売上高は50%増の115億4,000万ドル、調整後EPSは1.66ドルとなり、いずれも市場予想を上回りました。データセンター部門の売上高は2倍以上の67億2,000万ドルに達しています。
7〜9月期の売上高予想も約130億ドルと市場予想を上回りましたが、決算発表後の時間外取引で株価は約9%下落しました。
これは決算が悪かったという意味ではありません。株価が事前に大きく上昇し、投資家がさらに強い成長加速を期待していたため、予想を上回る程度では新たな買い材料として不十分だったと考えられます。
株価反応は企業の絶対的な業績評価ではなく、実績と事前期待の差を反映します。PalantirとAMDの対照は、この仕組みを分かりやすく示しています。
■PfizerとAmgenでは製薬会社の利益構造に差
Pfizerの調整後EPSは0.77ドルとなり、市場予想を0.09ドル上回りました。血液を固まりにくくする抗凝固薬Eliquisの売上高は21%増の24億3,000万ドルです。
一方、会計基準に基づく最終損益は1株当たり0.04ドルの赤字となりました。買収した肺がん治療薬候補に関する38億ドルの減損などが計上されたためです。同社は追加で25億ドルの経費削減を進めます。
調整後利益は既存事業の採算改善を示しますが、減損は過去の研究開発や買収投資から期待した価値を回収できない可能性が高まったことを意味します。調整後EPSだけを見れば、この経済的損失を見落とします。
Amgenは売上高が約101億ドル、調整後EPSが6.29ドルとなり、市場予想を上回りました。高脂血症治療薬Repathaなどが伸び、通期売上高予想を382億〜394億ドルへ引き上げています。
製薬会社の決算では、現在の売上高だけでなく、特許切れで減少する既存薬を新薬がどこまで補えるか、研究開発中の薬が承認へ進めるかを確認する必要があります。
■McDonald’sは利益より客数の弱さが問題
McDonald’sの調整後EPSは3.38ドルと市場予想を上回りましたが、米国内の既存店売上高は0.8%増にとどまり、市場予想の1.06%増を下回りました。世界全体の既存店売上高も1.3%増となり、前期の3.8%増から減速しています。
既存店売上高とは、新規出店や閉店の影響を除き、継続して営業している店舗の販売状況を比較する指標です。ただし、売上高の増加が来店客数の増加によるものか、値上げによるものかは別に確認しなければなりません。
低価格メニューを導入しても、新たな来店を十分に増やせなければ、値引きによって利益率だけが低下する可能性があります。今後は売上高だけでなく、客数、平均購入額、販促費用の変化が重要になります。
■8月5日 Disneyは知的財産、Uberは将来投資が焦点
Disneyは映画から複数事業へ利益を広げた
The Walt Disney Companyの売上高は7%増の252億ドルとなり、市場予想をわずかに下回りましたが、調整後EPSは28%増の2.06ドルとなり、予想を上回りました。
テーマパークなどの体験部門は約100億ドルを売り上げ、10%増収となりました。動画配信の利用料金収入も15%増加しています。映画「Toy Story 5」は映画館収入だけでなく、関連商品の販売、Disney+での過去作品の視聴、テーマパークへの来場にも波及しました。
これは、Disneyの知的財産が一つの作品から複数の収益源を生み出す仕組みを示しています。ただし、体験部門の利益には約1億ドルの関税還付が含まれており、利益成長のすべてが継続的な事業改善によるものではありません。
Uberは現在の需要と将来投資の評価が分かれた
Uber Technologiesの総予約額は24%増の580億2,000万ドルとなり、市場予想を上回りました。
総予約額は、利用者が配車や料理配送などで支払った取引総額です。Uber自身の売上高や利益とは異なり、運転手や飲食店へ支払われる金額も含まれます。
同社は自動運転タクシー事業へ今後100億ドル以上を投資する方針を示しました。一方、7〜9月期の調整後EPS見通しは市場予想を下回り、株価は4.8%下落しました。
現在の配車需要は強いものの、自動運転車両への投資がいつ利益へ結び付くかは確定していません。Uberは自社だけで自動運転技術を開発するのではなく、複数の開発企業や車両運営会社へ資金を投じるため、提携先の技術、安全性、規制対応にも成果が左右されます。
■3日間の決算が示した三つの構造
第一に、AI設備投資の恩恵が、AIソフトウェアや高性能半導体から、電力制御、発電設備、建設機械へ広がっています。
データセンター建設が増えると、まず半導体やサーバーが必要になります。次に、大量の電力を安定供給するための配電・変換設備、冷却装置、非常用発電機が必要です。さらに施設を建設するための重機や資材需要が発生します。
第二に、良い決算と株価上昇は同義ではありません。AMDのように高成長を続けていても、市場がそれ以上の数字を期待していれば株価は下落します。
第三に、利益の金額だけでなく、その利益がどのように生まれたかが重要です。値上げ、費用削減、一時的なイベント、会計上の調整による利益と、客数、販売数量、新規契約の拡大による利益では、継続可能性が異なります。
■誤解しやすい点と残る不確実性
最も注意すべきなのは、市場予想を上回った企業を一律に「好決算」と評価することです。
調整後EPSの上振れが経費削減によるものなのか、売上高の拡大によるものなのかで意味は変わります。買収関連の減損を除外した調整後利益が良くても、買収資金の一部を回収できないという問題は残ります。
また、ワールドカップによる広告需要、映画の大ヒット、関税還付などは、次の四半期にも同じ規模で続くとは限りません。一四半期の数字だけでは、長期的な成長力を確定できない点にも注意が必要です。
■次の決算で確認すべき判断基準
AI関連企業では、売上高の伸びだけでなく、データセンター事業の利益率、受注残高が実際の売上高へ変わる速度、顧客による設備投資計画を確認する必要があります。
消費関連企業では、価格上昇を除いた販売数量や客数が重要です。McDonald’sでは来店客数、Snapでは成熟市場の利用者数と広告単価、Disneyでは一時的な利益を除いた動画配信とテーマパークの採算が判断材料になります。
Uberでは、総予約額の成長に加え、自動運転関連支出、フリーキャッシュフロー、提携先車両の稼働地域と採算を確認する必要があります。
製薬会社では、既存薬の売上高だけでなく、特許切れの時期、新薬の臨床試験結果、承認状況、買収した医薬品候補の減損を追うことが欠かせません。
今回の決算期から読み取れるのは、米国企業の利益成長が続いている一方、市場が企業名や「AI関連」という分類だけで評価する段階から、受注、利益率、資本効率、需要の持続性を選別する段階へ移っていることです。次の決算では、成長率そのものより、成長を生んだ要因が再現可能かどうかが最大の判断基準になります。
▼参考資料
Reuters
「US stock market could ride earnings strength to more gains after S&P 500 hits record」
Reuters
「Palantir lifts annual revenue forecast on steady demand for AI-powered data analytics」
Reuters
「Snap beats revenue estimates on ad boost from World Cup, shares surge」
https://www.reuters.com/business/snap-beats-revenue-estimates-ad-boost-world-cup-2026-08-03/
Reuters
「Onsemi forecasts upbeat revenue on surging AI data center chip demand」
Reuters
「Vertex raises annual revenue forecast on cystic fibrosis drugs strength」
Reuters
「Caterpillar lifts 2026 sales growth forecast as AI buildout powers on」
Reuters
「AMD's AI-powered revenue forecast fails to wow investors」
Reuters
「Pfizer beats earnings estimates, targets $2.5 billion in additional cost cuts」
Reuters
「McDonald's US sales growth slows as value push falters」
Reuters
「Amgen second-quarter sales rise 9%, profit tops Street view」
Reuters
「Disney's 'Toy Story 5' fuels streaming business and merchandise sales for June quarter」
Reuters
「Uber doubles down on robotaxi plans, shares fall on weak profit forecast」
Advanced Micro Devices, Inc.
「AMD Fiscal Second Quarter 2026 Financial Results」
Caterpillar Inc.
「2Q 2026 Caterpillar Inc. Earnings Conference Call」
The Walt Disney Company
「Disney’s Q3 FY26 Earnings Results Webcast」